はじめまして、ルート・ブリュック

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東京ステーションギャラリーで開催されている『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』 という展覧会に行ってきました。

 

 

まさしく、はじめまして のルート・ブリュック。はじめましての東京ステーションギャラリー

私は、あまり蝶は好きではないし、ルート・ブリュックさんは初耳の方だし、正直どうしようかなと思っていた展覧会でした。でも、行って大正解。あっという間に彼女の魅力に引き込まれてしまいました。

 

何かに導かれるように知らない森に迷い込んで、いつのまにか自分だけの秘密の少しひらけた丘に出たような、そんな感覚でした。

 

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『お葬式』

 

こちらのギャラリーは、最初は全部撮影可能だったようですが、シャッター音の苦情が多かったとのことで、私が行った時は3階のみ撮影可能という状態でした。
 
上の写真は『お葬式』という作品。お父さんが亡くなった頃の作品だそうです。悲しみがひしひしと伝わってくる、でも優しい印象でした。
 

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『はじめまして、ルート・ブリュック』より「キルト」

彼女は母子を描いた陶板も作っていますが、どれもすごく不思議な印象でした。とにかくお母さんの目が虚ろなんです。ルートの娘さんであるマーリア・ヴィルカラさんは、

 

”彼女のが生み出す母親像は、ある強靭さをもっている。なんとなくこんな風に囁いているように見える。

『私は同時にもうひとつの別の場所にいるの』と。

もちろんそれは物理的にではなく、頭の中でだけれど。

母親というものは、自分の思いや夢のなかへとエスケープすることがある。時には自分の仕事のなかへと。”

 

と書いています。

とても理解できる気がします。私も子供とべったりの時期は、よく頭の中だけ、いろんな場所にトリップさせていました。逆にそれが、自分を自分として保つために必要だったと思います。子供と一緒に過ごすことは、どうしても子供の時間、子供の目線を通して、いわゆる子供ドリブンな世界にならざるを得ない。でも、どんな人でも自分が支配する時間が全くないというのは、自分という人間性を保つのが難しくなります。だから、この目をしているんだ、このお母さんは。

 

 

個人的に一番惹かれたのは、『ジャイプル』と『色づいた太陽』。私も昔インドに行ったのですが、その時の空気をありありと感じました。むせかえるような熱気と湿気。混沌とした時間さえもわからなくなるようなインド特有の空気。もう二十年も前のその記憶がふっと現れてきました。写真を撮れないところにあったのが、残念です。

 

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「ライオンに化けたロバ」の一部
 
ルート・ブリュックは色と色を組み合わせるのが本当にうまいのだと思います。私は、隣あう色によって変わる印象とか、色と色の関係とかがとても好きなので、そこが彼女の作品が好きな理由のひとつだと思います。特に鉱物を思わせる青はとても素敵です。
 
どんどん作風が変わっていったルートと言われていますが、私は一貫して、彼女の目を通して、体を通して、彼女の見た、過ごした北欧の森を感じます。それは、どのタイプの作品にも共通することです。
 
 

 

 

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『はじめまして、ルート・ブリュック』より「流氷』
 
 
一度、彼女の体を通して現れてくる北欧の景色を感じに行ってはいかがでしょうか。