はじめまして、ルート・ブリュック
東京ステーションギャラリーで開催されている『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』 という展覧会に行ってきました。
まさしく、はじめまして のルート・ブリュック。はじめましての東京ステーションギャラリー。
私は、あまり蝶は好きではないし、ルート・ブリュックさんは初耳の方だし、正直どうしようかなと思っていた展覧会でした。でも、行って大正解。あっという間に彼女の魅力に引き込まれてしまいました。
何かに導かれるように知らない森に迷い込んで、いつのまにか自分だけの秘密の少しひらけた丘に出たような、そんな感覚でした。
彼女は母子を描いた陶板も作っていますが、どれもすごく不思議な印象でした。とにかくお母さんの目が虚ろなんです。ルートの娘さんであるマーリア・ヴィルカラさんは、
”彼女のが生み出す母親像は、ある強靭さをもっている。なんとなくこんな風に囁いているように見える。
『私は同時にもうひとつの別の場所にいるの』と。
もちろんそれは物理的にではなく、頭の中でだけれど。
母親というものは、自分の思いや夢のなかへとエスケープすることがある。時には自分の仕事のなかへと。”
と書いています。
とても理解できる気がします。私も子供とべったりの時期は、よく頭の中だけ、いろんな場所にトリップさせていました。逆にそれが、自分を自分として保つために必要だったと思います。子供と一緒に過ごすことは、どうしても子供の時間、子供の目線を通して、いわゆる子供ドリブンな世界にならざるを得ない。でも、どんな人でも自分が支配する時間が全くないというのは、自分という人間性を保つのが難しくなります。だから、この目をしているんだ、このお母さんは。
個人的に一番惹かれたのは、『ジャイプル』と『色づいた太陽』。私も昔インドに行ったのですが、その時の空気をありありと感じました。むせかえるような熱気と湿気。混沌とした時間さえもわからなくなるようなインド特有の空気。もう二十年も前のその記憶がふっと現れてきました。写真を撮れないところにあったのが、残念です。